ホルミシスのメカニズム

低放射線ホルミシスとは
img001低線量の放射線はカラダにいい!!
放射線には、人工放射線と自然放射線があります。レントゲン撮影やCTスキャンなど医療で使われるX線や、核分裂のエネルギーを取り出す原子力発電で発生する放射線などを人工放射線といいます。東日本大震災による福島原子力発電所の放射線被曝はいまだ記憶に新しく甚大な被害をもたらしましたが、この人工放射線は大量に浴びるとカラダに害を及ぼし、ひどい場合は死にいたらしめる大変危険なものです。対して、自然放射線とはもともと自然界に存在する放射線で、宇宙線や大地、建物やわたしたちが普段食べているさまざまな食物、大気中に常に存在する微量の放射線が自然放射線といいます。実は、この自然放射線の10倍~100倍くらいの放射線を浴びるとカラダや健康にいいことがわかってきました。
ホルミシスとは、もともとある物質が高濃度あるいは大量に用いられた場合には有害であるのに対し、低濃度あるいは微量に用いられると有益な作用をもたらす現象を示します。放射線でも同じ現象が起こることから、「低放射線ホルミシス」といわれ、近年様々な研究により、カラダと健康に有益に作用する「低放射線ホルミシス」が注目されています。
低放射線ホルミシスの由来
そもそもの始まりは、ミズーリ大学名誉教授のトーマス・D・ラッキー博士の提唱からです。NASA(アメリカ航空宇宙局)より、宇宙飛行士の宇宙放射線環境内での生体調査を委託されたラッキー博士は、宇宙飛行士が宇宙より帰還したあとの方が、宇宙へ行く前よりはるかに健康状態が良くなっているという調査結果から始まります。
宇宙飛行士が地球上にいるより、はるかに放射線量の多い宇宙にいたのにもかかわらず、精密な検査数値が良好なことに着目したラッキー博士は、数々の試験と研究の結果、適量の放射線を浴びた場合、生体によい影響があるということを発見しました。
これを受けて、日本でも電力中央研究所や各地の大学などで、低線量放射線の照射研究が始まります。
※ トーマス・D・ラッキー(1919年~) アメリカの生化学者・1980年 「放射線ホルミシス」Radiation hormesis という仮説を発表した。国際ホルミシス学会の7人の指導的科学者のひとり

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がん抑制遺伝子p53の活性変化

NASAから始まった低放射線ホルミシス
ラッキー博士がNASAから依頼を受けた当時はアポロ計画の推進中でした。そのため地球上の数百倍以上の宇宙放射線を受ける宇宙飛行士の影響に対して調査が必要でした。以来ラッキー博士は、10年以上の歳月をかけて研究を続け、研究の成果をアメリカ保健物理学会誌「Health Physics」(1982年12月号)に発表しました。
低放射線による生体への有益な効果は、こうしてギリシャ語の「hormaein」(刺激する)を語源としたホルミシス現象から、「低放射線ホルミシス」と呼ばれるようになりました。
日本でも、奈良県立医科大学医学部の大西武雄教授の実験により、がん抑制遺伝子p53の活性変化が研究結果として、ラッキー博士の概念を裏付ています。大西教授は、宇宙空間と同じ環境下で放射線を照射したマウスの実験により、筋肉細胞中のp53タンパクが、照射後は4倍で9日後も3倍のまま維持されているという研究結果を発表しています。

 

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トーマス・D・ラッキー博士;放射線ホルミシス(1993年著)より

ラッキー博士の低放射線ホルミシスの概念
生体が放射線を浴びた場合、放射線量がゼロから増加していくと、カラダや健康にいいとされる効果がZEP(しきい値)まで現れ、それ以上の放射線量になると有害で、最終的には致死量に達するという研究結果をラッキー博士が発表しました。しきい値とは境界線を示し、しきい値内の低線量放射線であれば、生体を刺激し高い細胞活性効果が認められるという、いままで世界の放射線学会の主流的学説である、放射線は微量でも有害で、DNAは受けた放射線量に比例して変異するという概念と真っ向から対立するものでした。
当然のことながら、ラッキー博士の概念は、ほとんど省みられずに埋もれてしまいましたが、日本の電力中央研究所の服部禎男博士を中心とした研究者の研究や実験によりラッキー博士の理論が正しいことが証明されることで、多くの放射線学者や医療関係者の注目を集めることになりました。
A:しきい値なしの直線モデル「放射線量に比例して生体に障害を及ぼす」
B:しきい値ありのホルミシスモデル「しきい値内の低放射線は、カラダに刺激効果を与え健康に寄与する」

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日常生活と放射線量の目安

放射線の基礎知識
放射線は、高速の運動エネルギーをもって動きまわる素粒子の粒子線(イオン・電子・中性子・原子核などの粒子放射線)または波長が短い高エネルギーの電磁波(光の性質をもつ、ガンマ線やエックス線などの電磁放射線)の総称です。
わたしたちの身の回りには、さまざまな放射線が存在し、地球の大地や、普段食べている食品、空気中にも存在しています。現在の研究や調査では、200mSv(ミリシーベルト)以下の放射線を浴びても臨床症状が確認できていません。したがって、生体への影響はないとされていますが、まだまだ放射線に対しては未知数ということもありますので、ここでは一応100mSv以下と基準しています。しかし、わたしたちが、普段からあらゆる種類の放射線を日々浴び続けているのには変わりありません。地球上では、世界平均でみると一人当たり年間に2.4mSvの放射線を受けていますが、日本では比較的少なく年間平均で1.5mSv以下の放射線量となっています。世界にはこの自然放射線量が極めて多い地域と弱い地域が存在します。ブラジルのガラパリ市や中国の広東省陽光県などは、非常に自然放射線が多い地域ですが、実はこの強い地域では弱い地域に対して、がん死亡率が低いという調査結果もあります。これらから、低線量放射線は生体に悪影響を与えることなく有益であると考えているのが、低放射線ホルミシスです。
低放射線ホルミシスでは、さまざまな放射線の中から特にラジウムが崩壊して生成するラドンに着目し、生体へ悪影響を及ぼすことがない濃度で、カラダや健康にいいとされる効果が話題となっています。

 

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ハーマン・J・マラー博士

これまでの放射線の常識
これまでの放射線の常識は、放射線の有害性は放射線量の強さに比例するという、アメリカの遺伝子学者ハーマン・J・マラー博士(1890~1967年)の学説に基づいてました。ショウジョウバエのオスに対するエックス線照射実験により、放射線の照射量と発生した染色体異常の数は比例するという仮説を発表し、人為突然変異の誘発を発見した業績で、マラー博士は1946年ノーベル生物学・医学賞を受賞しています。
しかし現代の細胞学では、人体において何百という修復酵素が、1日に100万ものDNAを修復し、修復しきれない100個ほどの異常細胞もがん抑制遺伝子p53によって破壊され、破壊されなかった1個の損傷だけがそのまま残されるという修復メカニズムの存在が明らかになっています。マラー博士の時代には、まだこの修復メカニズムも発見されていません。実験の検体であるショウジョウバエのオスの精子は、もともとDNA修復力を持たない細胞だということも発見されていませんでした。
こうしたことから、放射線は微量でも危険という説が、これまでの放射線の常識でした。しかし現在は低放射線の刺激効果が、DNA修復やがん抑制遺伝子p53の活性などにより有益であることがわかり医療への応用なども試みられています。

 

低放射線ホルミシスでは、生体にもともと備わっている放射線への防御機能が、刺激作用によって増強されます。
これまでの放射線の常識では、もはや説明ができない現象が明らかになっています。

img003万病の元「活性酸素」を抑制

まず健康や美容を語るうえで重要なキーワードは「活性酸素」です。活性酸素とは、酸化させる力が非常に強力でとても活発な酸素のことです。普段の生活でわたしたちが呼吸によって取り入れている酸素の約2%が活性酸素になるといわれています。この強力な酸化作用の攻撃力で、生体の細胞内に侵入したウィルスや細菌を退治するという、カラダにはなくてはならない存在でもあります。しかし、一方では健康な細胞や組織までも酸化させ重大な損傷を与えてしまったり、DNAを損傷させてしまうのも、この活性酸素が原因のひとつです。がん、慢性病を始めとし老化の原因、万病の元とも言われる活性酸素ですが、低放射線により抑制させる効果があるとわかりました。

img004低放射線の強力な抗酸化作用
活性酸素を打ち消す抗酸化作用としては、ビタミンCやビタミンEの摂取がいいといわれています。しかし、そのビタミンCやビタミンEとは段違いの抗酸化作用を促すことが低放射線にはできることがわかりました。低放射線が、細胞の大部分を占める水分を電離し一時的に活性酸素を発生させます。これによってカラダがもともと持つ抗酸化作用をさらに促進させ、活性酸素を打ち消してしまうことがわかりました。大量では毒となるものが、微量の場合はカラダに有益ということは医薬品でもたくさんの症例があります。「万病の元である活性酸素をこれほど打ち消す働きは他にはない」と、世界的な巨大医薬品会社の研究者も認めるほど抗酸化作用があるのが、低放射線ホルミシスなのです。

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c02抗酸化酵素が150%増加

低放射線ホルミシスに関連する実験は、日本国内の研究所や各地の大学でさらに進んでいます。

数々の研究論 文も発表されるなか、低放射線ホルミシスの基礎的実験は十分に行われたという段階まできています。活性酵 素を抑制する抗酸化酵素「SOD(スーパーオキシド・ジムスターゼ)」と「GPx(グルタチオン・ペルオキシダー ゼ)」は、低放射線ホルミシスによって飛躍的な増加が見らます。岡山大学の山岡聖典教授と東京大学の二木鋭 雄教授による実験では、このSODとGPxのレベルが150%増加することが、東京大学先端科学技術研究セン ターで行われたマウスのエックス線の全身照射により確認されました。
いま期待されるのはわたしたち人間への効果、つまりは医療や治療現場への応用です。低放射線ホルミシスで は、わたしたちが簡単に細胞内に取り込むができる低放射線物質としてラジウム鉱石から発生するラドン 222による効果が注目されています。ラドン吸入調査によると、やはり抗酸化酵素SODの活性化や血中の悪 玉コレステロールや過酸化脂質の濃度が減少することが確認されています。

これまで医薬品で抗酸化酵素を 増加させようとしてきましたが、実際には細胞を取り囲む細胞膜に阻止されて、容易には細胞内に入り込めま せんでした。ラドン吸入による低放射線ホルミシスは、これを簡単に成し遂げるため臨床的にも最も効果が期 待されています。

 

 

 

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細胞の若返り効果
活性酸素を抑制すると、細胞膜の透過性が改善されます。過酸化脂質の濃度が減少することで細胞膜の透過性がアップします。透過性が良くなると血液の運んでくる栄養分などが細胞により多く取り込まれます。逆に細胞内でつくられたタンパク質や酵素などの良質な物質とDNA修復時に発生した老廃物も細胞から送り出されやすくなります。それによって細胞間の連絡がスムーズになり、細胞の新陳代謝がよくなります。年齢とともに低下する細胞膜の透過性が改善されることで、細胞の再生や修復が本来もつ正常な機能に戻り細胞が若返る効果があることも確認されています。
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低放射線ホルミシスで各種ホルモンが増加
ラドン吸入による低放射線ホルミシスの各種ホルモンの活性化についても研究されています。いずれも各種ホルモンの飛躍的増加が確認され、カラダだけでなく気持ちや肌の状態まで全身的な健康と美容のさまざまな改善に効果があることがわかりました。
岡山大学の山岡聖典教授は、さらに同大学の古元嘉昭教授らともに、ラドン吸入によるホルモンの増加をラットによる実験体を使い調査しました。(各ホルモンの下記グラフ参照)いずれも各ホルモン分泌が、対照群である普通のラットに比べ明らかなホルモン増加が確認されました。

 

 

 

c07がん抑制遺伝子p53が活性化
がんは日本人の死因として一番多い病気ですが、がん発生原因としてはDNA損傷が関連していることがわかっています。がん抑制遺伝子p53は、細胞内でDNA修復や細胞増殖を遅延させ、修復できなかった細胞をアポトーシス(死滅)させる働きがあります。このがん抑制遺伝子p53が、低放射線ホルミシスによって活性化することが確認できています。
がん抑制細胞遺伝子p53の各臓器の活性変化のグラフは、奈良県立医科大学医学部の大西武雄教授の実験によるものですが、対照群であるマウスに対して低放射エックス線を異なる線量で6時間照射した結果です。いずれも、がん抑制遺伝子p53の活性化が確認され、がん細胞の増殖を抑制する効果が期待されます。
日本国内初の低放射線ホルミシスの専門機関である一般社団法人ホルミシス臨床研究会の医師によるケーススタディも数々の報告され、実際の医療現場においても、低放射線ホルミシスの有効性が確認されています。

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糖尿病の抑制効果
糖尿病には、自己免疫疾患で発症するⅠ型と生活習慣病のひとつと考えられるⅡ型の2種類があります。日本人で多いのがⅡ型のインスリン非依存型です。低放射線ホルミシスでは、ホルモン分泌が増加されるのは前述のとおり確認されていますが、一般財団法人電力中央研究所の研究報告でも、糖尿病の発症抑制効果(グラフ)が確認されています。
糖尿病の発症抑制効果に対する実験には、Ⅰ型を発症するマウスに生後12~13週で、0.5グレイというガンマ線を照射しました。通常では、15週で発症がみられ22週では実に60%以上がⅠ型を発症するのに対して、照射された実験体は発症するのが抑制されることが確認できています。
さらにⅡ型に対しても、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下について実験が行われています。いずれにしても、平均寿命が延び老化現象も改善され、正常な実験体の肝臓細胞に近い状態であることが確認されています。
糖尿病で一番恐ろしいのは長期に渡る高血糖状態からくる合併症です。合併症は、活性酸素による強力な酸化ストレスが原因といわれますが、低放射線ホルミシスでは抗酸化作用によって合併症を抑制する効果もあることが期待されています。

 

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服 部 禎 男 博士

日本における低放射線ホルミシス
日本における低放射線ホルミシスの研究は、ホルミシス臨床研究会理事の服部禎男博士がトーマス・D・ラッキー博士の論文に出会ったことから始まります。放射線の従来の常識では考えられないデータから、服部博士は「とんでもない論文」と憤慨されたそうです。恩師であり旧友のアメリカ電力研究所(EPRI)理事長のフロイド・カラー氏に、ラッキー論文の正当性をアメリカとしてしっかりと回答してほしいと求めたほどでした。カラー氏は、親切にもわざわざワシントンのエネルギー省に出向き調査を依頼します。1985年8月にEPRI環境部所属で放射線環境の世界的権威であるレオナード・セーガン氏が幹事を務め、オークランド会議(第1回ホルミシス会議)が開催され、その調査結果が発表されました。会議は当初予定を大幅に上回る百数十人の参加者からラッキー論文を肯定する賛成論文が多数発表され正当性が確認されました。
服部博士もEPRIに招かれ、オークランド会議の幹事を務めたセーガン氏から回答を得ることができました。しかし、結論的にはラッキー論文は正しいとされながらも、小さな生命体の実験データばかりで、哺乳類や人間に関するデータの必要性を求められました。服部博士は、1988年日本の電力中央研究所の理事就任から岡山大学医学部の協力を得て動物実験を始めます。
日本における実験データは、アメリカの学者たちには衝撃的なものとなりました。特に1994年春、アメリカ国立衛生研究所主催の講演会で服部博士の研究発表は、大きな称賛を得たことができました。これを受けてアメリカも、Radiation Science & Health(RSH)というNPOを結成し低放射線ホルミシスの研究が本格化します。RSHは、DNA研究核医学会の世界的権威で原子力規制委員会の医学顧問のマイロン・ポリコーブ カルフォルニア大学名誉教授が会長で、副会長には放射線分子生物学の第一人者であるルードヴィッヒ・ファイネンデーゲン博士が就任するほどでした。
※ 服部 禎男 博士(1933年~) 工学博士・元電力中央研究所名誉特別顧問・一般社団法人ホルミシス臨床研究会理事・放射線と健康を考える会理事 2005年「放射線ホルミシス研究とその国際的推進」によりバンガード賞受賞

 

放射線認識の歴史的転換
1996年、RSHのこの2人は共同研究により「人類細胞は活性酸素により自然放射線の1000万倍レベルのアタックを毎日受け、細胞一個あたり毎日100万件のDNA修復をしている。」という論文を発表しました。しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)や世界の放射線関係者、放射線医学会の従来の常識(マラーの学説)を覆すことは難しく、なかなか理解を得られませんでした。
1998年、RSHのポリコーブ博士は、放射線の世界的権威であるフランス医学アカデミーのモーリス・チュビアーナ博士に協力を依頼します。チュビアーナ博士は、放射線の許容範囲に関係する動物実験をし、2001年ダブリンでその研究結果である「毎時10mSvまでの放射線下でも細胞のDNAは修復する」ことを発表しました。チュビアーナ博士は、顕著な研究業績によりマリー・キュリー賞を受賞していますが、日本における低放射線ホルミシスの積極的な研究とさらなる前進を期待し、服部禎男博士にも激励しています。

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コバルト

台湾の放射線大規模マンションの実例
1992年台湾では、住民10,000人が入居する1700戸の大規模マンションの鉄筋にコバルト60が混入していることが発覚しました。身元不明線源となったコバルト60が再利用され鉄筋に混入、その建物とその周辺住民が高線量の放射線下で実に10年間も生活していることが判明し大騒ぎになりました。コバルト60とは、医療用や工業用のガンマ線源として利用される放射性物質です。長期にわたる放射能被曝による発がん率の高さが心配され、早速対象住民の健康追跡調査が行われました。実に19年間にわたって対象住民10,000人のがん死亡率が調べられました。
調査は意外な結果となりました。台湾全体のがん死亡率の平均は10,000人に対し206人、ICRPの放射線を考慮したがん死亡率は10,000人に対し270人という中で、対象住民のがん死亡率は、10,000人に対し7人という驚異的な数値が明らかになったのです。さらに、がんで死亡した7人は、入居前からがんが発症していたという事実が明らかになったのです。
この実例は、低放射線ホルミシスの有益な作用を示唆するものとなっています。